【はじめに】
FIP(Feline Infectious Peritonitis)は猫伝染性腹膜炎という名前から「お腹の中で炎症が起こり(腹膜炎)、お腹に水が溜まる(腹水)病気」と思われがちですが、実際は
非常にバリエーションのある病気です。FIPは症状や状態によって、ウェットタイプ(滲出型)とドライタイプ(非滲出型)の二つに大きく分けられます。しかし様々な症状が認められることから、この二つのタイプにきっちり分けられないことや、思いがけない症状で「実はFIPでした」なんてこともあります。そのため「この子はFIPです!」と明言できないことも多々あります。
【診断について】
FIP診断には
"brick by brick"という概念が存在しています。訳すると「レンガの積み重ね」となります。
つまり、レンガのように一つずつ検査を積み重ねることで、ようやくFIPの診断に辿り着けるというものです。
下記は
最新の国際的なFIPガイドラインの内容を一部抜粋したものです。
Diagnosing FIP can be straightforward if a cat with typical signalment presents with effusion, as tests using effusion generally have much higher positive predictive values (PPVs) than those using blood.However, if no effusion is present, diagnosis can become quite challenging due to the variety and non-specificity of possible clinical signs.
もし、体腔内の液体貯留を伴うような典型的な兆候があれば診断は難しくありません。これは、液体を用いた検査は血液を用いた検査よりもはるかに陽性的中率(検査が陽性であればその病気である確率)が高いためです。しかし、もし液体が存在しない場合、FIPは非特異的かつ様々なバリエーションがあるせいで、診断が非常に困難になることがあります。
To arrive at a diagnosis of FIP, the veterinarian must consider the individual patient's history, signalment and physical examination findings, and select diagnostic tests and sample types accordingly, in order to increase the index of suspicion 'brick by brick' .
FIPの診断をするうえで、獣医師は「レンガの積み重ね」のように既往歴、シグナルメント、臨床兆候、身体検査所見を考慮し、検査、検体を選択し、FIPの疑いを強めていかなければいけない。
※米国猫専門委員会(American Association of Feline Practitioners)はアメリカで権威のある猫の専門学会です。
~2022 AAFP/EveryCat Feline Infectious Peritonitis Diagnosis Guidelinesより一部抜粋~
典型的な症状ではない場合、診断に苦慮することがあります。
FIPは高い致死率だけではなく、診断が難しいことも世界中の獣医師の頭を悩ませる理由の一つなのです。
【当院の取り組みについて】
当院では「2022 AAFP/EveryCat Feline Infectious Peritonitis Diagnosis Guidelines」はもちろん「ABCD Europe FACTSHEETS&TOOLS for Feline infectious peritonitis(FIP)」「アイデックスラボラトリーズ(株)によるFIP診断アルゴリズム」などを参考にしながら、FIP治療の経験が豊富な獣医師とディスカッションを行い、体系的に診断を行っています。
下記は、FIPが疑われる場合に実施する検査の一例です。(本人の状態によって検査内容が大きく変わる場合があります)
※ABCD Europe(The European Advisory Board for Cat Diseases)は猫の感染症を専門にガイドラインを作成する団体です。
- 一般身体検査
- 血液検査(全血球計算、血清生化学、FeLV/FIVウイルス検査、炎症マーカーなど)
- 超音波検査(胸部、腹部)
- X線検査(胸部、腹部)
- スリットランプ検査(眼)
- 状況に応じて尿検査、FCoV(猫コロナウイルス)遺伝子検査、細菌培養検査など
このように、一部外部の機関に検査を委託しながら、全身を検査していきます。
【さいごに】
たとえば「状態の悪いうちの子に検査は大丈夫かな」と不安になることもあると思います。当然、獣医療では常にその子に対する検査の負担は考慮しなければいけません。
ただ、正確な診断がなければ正確な治療が行えないこともまた事実です。現代の獣医学では簡易的にFIPを診断できる検査は存在しません。そのため、様々な検査を組み合わせていくしかないのが現状です。
当院では、FIPが疑われる子に対してむやみな検査を強いることはありません。難しいと言われる診断に必要な検査を必要な分だけ、本人の状態はもちろん性格、年齢なども含めてご提案させていただきます。まずはご相談だけでも大丈夫です。お気軽にお問い合わせください。
当院のFIP治療に関して
https://www.allieys-cat.com/fip/
獣医師 浜島拓海